※当院での症例紹介です。※飼い主様には下記の目的で診療データの使用承諾をいただいております。・同じ病気で悩まれているご家族への説明・疾患啓発のためのホームページでの使用
患者さん:チワワ 8歳11か月 女の子
1~2か月前からお乳が張っていて、母乳が出続けている。
かかりつけ病院で「お乳のマッサージ」を指導されたが改善せず。
「陰部からのおりものがいつもより多く、出ている期間も長い」とのご相談もあり。
触診にて、左右の第4・第5乳腺に腫れ(ハリ)と乳汁分泌を確認。
陰部から粘液の排出を認めました。
直近で出産していないわんちゃんで 母乳が出続ける 場合、いくつかの原因が考えられます。特に 中高齢で避妊手術をしていない子 では、卵巣や子宮の病気と関連している可能性もあります。中には 命に関わる緊急性を要する病気(子宮蓄膿症など) が隠れているケースもあります。
飼い主様に検査の必要性をお伝えし、まず以下の検査を実施しました。
血液検査・子宮蓄膿症や乳腺炎がある場合、炎症の数値が上昇する可能性があるため確認。・卵巣·子宮の疾患が疑わしく、今後、治療として外科手術を行う可能性が高いため、全身麻酔に耐えられるかのチェックも含めて実施。
腹部超音波検査・卵巣、子宮の異常を最も負担なく把握できる検査として実施。
血液検査:異常なし
腹部超音波検査:子宮内膜の肥厚と子宮内の液体貯留を確認。さらに子宮体部に複数の嚢胞状病変を認めました。
青で囲っている部位が膀胱(おしっこが黒く映っています)黄色の線が子宮になります(子宮内の液体が黒く映っています)※超音波画像では液体が黒く映ります。
子宮水腫とは、子宮腔内に分泌物(液体)が貯留する疾患です。
わんちゃんでは排卵後、妊娠の有無にかかわらず 黄体ホルモン(プロゲステロン) の分泌が約2か月続くといわれています。この作用で子宮内膜は肥厚し、高齢になるほど発情のたびにこの刺激が重なり、子宮内膜腺からの粘液分泌や肥厚が進みます。ここに細菌感染が加わると、より重篤な 子宮蓄膿症 へと発展すると考えられています。子宮水腫の主要な臨床症状としては 偽妊娠の徴候 がみられますが、これは子宮蓄膿症でも確認されることがあります。
今回の症例では、母乳分泌やおりものの増加・長期化が子宮水腫からきている可能性が高いと飼い主様にご説明しました。
また、命に関わる子宮蓄膿症に進行する可能性もあることを飼い主様にお伝えしました。
外科療法:子宮・卵巣を摘出する不妊化手術が根本的な治療となります。
内科療法:ホルモン製剤を用いた治療も存在しますが、再発リスクや全身への負担を考慮すると外科療法が第一選択となります。
飼い主様とご相談のうえ、子宮・卵巣摘出手術(不妊化手術)を選択しました。また、嚢胞状の病変が悪性でないことを確認するため、摘出組織を病理組織検査に出しました。
※ここから先、摘出臓器の写真を掲載しています。苦手な方はご注意ください。
※拡大写真の青色の〇で囲っている箇所が嚢胞状の病変になります。
下に同じ犬種の卵巣・子宮の写真を添付します。
結果は「腺筋症を伴う子宮内膜嚢胞状過形成」でした。悪性所見はなく、子宮水腫の説明で触れた子宮内膜の肥厚に加え、性ホルモンの影響により子宮筋層内にも子宮内膜成分が形成されている状態でした。
気にされていた母乳の分泌やお乳の張りは見られなくなりました。
「母乳が出る=妊娠・出産のあと」と考えられがちですが、実際には 子宮・卵巣の病気やホルモン異常、乳腺の病気 によっても起こります。
今回のように母乳分泌やおりものの異常が続く場合、重大な病気のサインであることもあるため、ご相談ください。
※当院での症例紹介です。
※飼い主様には下記の目的で診療データの使用承諾をいただいております。
・同じ病気で悩まれているご家族への説明
・疾患啓発のためのホームページでの使用
症例紹介
患者さん:チワワ 8歳11か月 女の子
主訴(ご相談内容)
1~2か月前からお乳が張っていて、母乳が出続けている。
かかりつけ病院で「お乳のマッサージ」を指導されたが改善せず。
「陰部からのおりものがいつもより多く、出ている期間も長い」とのご相談もあり。
診察所見
触診にて、左右の第4・第5乳腺に腫れ(ハリ)と乳汁分泌を確認。
陰部から粘液の排出を認めました。
考えられる原因
直近で出産していないわんちゃんで 母乳が出続ける 場合、いくつかの原因が考えられます。特に 中高齢で避妊手術をしていない子 では、卵巣や子宮の病気と関連している可能性もあります。中には 命に関わる緊急性を要する病気(子宮蓄膿症など) が隠れているケースもあります。
今回の対応
飼い主様に検査の必要性をお伝えし、まず以下の検査を実施しました。
血液検査
・子宮蓄膿症や乳腺炎がある場合、炎症の数値が上昇する可能性があるため確認。
・卵巣·子宮の疾患が疑わしく、今後、治療として外科手術を行う可能性が高いため、全身麻酔に耐えられるかのチェックも含めて実施。
腹部超音波検査
・卵巣、子宮の異常を最も負担なく把握できる検査として実施。
検査結果
血液検査:異常なし
腹部超音波検査:子宮内膜の肥厚と子宮内の液体貯留を確認。さらに子宮体部に複数の嚢胞状病変を認めました。
青で囲っている部位が膀胱(おしっこが黒く映っています)
黄色の線が子宮になります(子宮内の液体が黒く映っています)
※超音波画像では液体が黒く映ります。
疑われる病気:子宮水腫
子宮水腫とは、子宮腔内に分泌物(液体)が貯留する疾患です。
わんちゃんでは排卵後、妊娠の有無にかかわらず 黄体ホルモン(プロゲステロン) の分泌が約2か月続くといわれています。この作用で子宮内膜は肥厚し、高齢になるほど発情のたびにこの刺激が重なり、子宮内膜腺からの粘液分泌や肥厚が進みます。ここに細菌感染が加わると、より重篤な 子宮蓄膿症 へと発展すると考えられています。
子宮水腫の主要な臨床症状としては 偽妊娠の徴候 がみられますが、これは子宮蓄膿症でも確認されることがあります。
今回の症例では、母乳分泌やおりものの増加・長期化が子宮水腫からきている可能性が高いと飼い主様にご説明しました。
また、命に関わる子宮蓄膿症に進行する可能性もあることを飼い主様にお伝えしました。
治療方針
外科療法:子宮・卵巣を摘出する不妊化手術が根本的な治療となります。
内科療法:ホルモン製剤を用いた治療も存在しますが、再発リスクや全身への負担を考慮すると外科療法が第一選択となります。
飼い主様とご相談のうえ、子宮・卵巣摘出手術(不妊化手術)を選択しました。また、嚢胞状の病変が悪性でないことを確認するため、摘出組織を病理組織検査に出しました。
卵巣子宮全摘出
※ここから先、摘出臓器の写真を掲載しています。苦手な方はご注意ください。
※拡大写真の青色の〇で囲っている箇所が嚢胞状の病変になります。
下に同じ犬種の卵巣・子宮の写真を添付します。
病理検査結果
結果は「腺筋症を伴う子宮内膜嚢胞状過形成」でした。
悪性所見はなく、子宮水腫の説明で触れた子宮内膜の肥厚に加え、性ホルモンの影響により子宮筋層内にも子宮内膜成分が形成されている状態でした。
治療後
気にされていた母乳の分泌やお乳の張りは見られなくなりました。
飼い主様へのメッセージ
「母乳が出る=妊娠・出産のあと」と考えられがちですが、実際には 子宮・卵巣の病気やホルモン異常、乳腺の病気 によっても起こります。
今回のように母乳分泌やおりものの異常が続く場合、重大な病気のサインであることもあるため、ご相談ください。